第5章
最後の音符が空気中に溶けていく。舞台上の私は『ジゼル』第二幕の終幕のポーズを保ったまま、右手をそっと胸に当て、左手をわずかに掲げる。まるで魂が天へと昇っていくかのように。スポットライトの下、汗が頬を伝い落ちるが、動くことも、瞬きすることも許されない。やがて——
潮のように押し寄せる拍手。
新国立劇場の客席は満員だった。二時間近くに及ぶ公演は私の体力をすべて奪い去ったが、今、この瞬間、すべての視線が私一人に注がれているのを感じていた。五年前、私はまだ松山バレエ団の一介の脇役に過ぎなかった。しかし今日、私は東京で最も重要なこの舞台の中央に立ち、『ジゼル』の主役を演じている。
カーテンコールの際、私は客席を見渡した。わざわざ私の公演を観に来てくれたバレエ愛好家たちの瞳が、熱い光を放っている。彼らに微笑みかけながら一礼するが、心は密かに、私の公演に必ず来てくれるはずの、あの人の姿を探していた。
初めて主役として舞台に立ったのだ。たとえ観客の一人としてでも、彼が現れてくれることを、やはり期待していた。
だが、彼がもう来ることはないのだと、分かってもいた。
舞台から退がると、バレエ団のパートナーである霧島浔が、尋常ならざる輝きを瞳に宿して私のそばへ歩み寄ってきた。
「おめでとう、心音」
彼は囁くように言った。その声色には、何かを予期していたかのような喜びが滲んでいる。
「何が?」
私は訝しげに彼を見つめた。
彼はただ神秘的に微笑み、舞台裏へと向かう団員たちの後についてくるよう、目で合図した。
楽屋の外の廊下では、団長がすでに待っていた。普段は厳しいその顔に珍しく笑みを浮かべ、周りを全団員が囲んでいる。私が歩み寄ると、彼は軽く手を叩き、廊下全体が静まり返った。
「拍手で迎えよう! 我らが松山バレエ団の新プリンシパル——葵野心音を!」
再び拍手が沸き起こる。舞台上で浴びたものよりも、さらに熱烈に。一瞬驚きに打たれたが、すぐに冷静さを取り戻した。プリンシパル——それは、これからさらに厳しい練習計画、より多くの責任、そして、より少ないプライベートな時間を意味する。
星野澪のことを考える時間が、もっと少なくなる。
拍手の中、霧島浔が私に近づき、提案した。
「これほどの快挙だ、盛大にお祝いしないと。伝統の打ち上げを予約してあるんだ。みんな待ってるよ」
私は頷き、どうにか微笑みを一つ絞り出した。
一時間後、私と数人の団員の仲間は、霧島浔を待ちながら劇場の入口に立っていた。東京の夜風が頬を優しく撫で、火照りを少しだけ奪っていく。
「あっ!」
隣にいた団員が突然声を上げた。
「あれって『サーキットの王子様』の星野澪じゃない?」
私の心臓が、瞬間、時を止めた。
彼女が指差す方を見ると、七年間会うことのなかったその姿があった。彼は劇場向かいの路上に立ち、レーシングチームのウェアを着た男性と話している。
まるで私の視線を感じ取ったかのように、星野澪がこちらを振り向いた。
私たちの視線が空中で交わる。しかし、それはほんの一瞬のことだった。
彼の瞳に困惑の色が一瞬よぎったかと思うと、すぐに冷淡と疎遠な表情に戻り、身を翻して会話を続けた。
『葵野心音、あんたって本当に意気地なし』
私は心の中で自分を責めた。
その後の打ち上げでは、心ここにあらずだった。頭の中は星野澪でいっぱいだった。
この七年で、彼は日本のGTレースからF1の国際舞台へと駆け上がり、今やメディアがこぞって追いかけるスターレーサーとなっていた。どのレースも、数え切れないほどの注目を集めている。
お開きになり、私は上着を羽織って車を待っていた。少し酔いが回っている。
「心音、送っていくよ」
霧島浔が、私の上の空に気づいたのだろう、心配そうにこちらを見ていた。
「ううん、大丈夫。もう代行を呼んだから」
私は彼の厚意を、やんわりと断った。
霧島浔は一年前、私に告白してきた。
彼は誰もが認める理想の恋人だ。優しくて、思いやりがあり、人との付き合い方も心地よい距離感を保っている。
ただ、私は先に星野澪と出会ってしまった。だからもう、他の誰も愛せなかった。
私が断っても、彼は理由を追及することなく、ただ理解したと頷いてくれた。
代行の車はすぐにやって来て、私を乗せてきらびやかな街路を走り出した。
車が交差点の赤信号で停止した時、後方から大きな衝撃音が響いた——追突されたのだ。
運転手は慌てて状況を確認しに車を降り、私は車内に座ったまま、突然の出来事に驚いた心を落ち着かせようと努めた。
ほどなくして、運転手が私の側のドアを開け、困ったような顔で言った。
「お客様、後ろの車の男性が、謝罪したいと……」
私は窓の外に顔を向け、息が凍りついた。
